Alice in Tea
あの悲しい事件から四年。
俺は生き残った今も刑事をやっている。
それが罪滅ぼしだと未だに思っているせいかもしれない。
性格からこの仕事が合っていると思ったこともある。
もうかつて飲んでいた親友たちはもういない。
唯一、生き残ってしまったことに罪悪感は一生消えないだろう。
だけど進まなくては。
そう決意して柄にもなく俺は洋菓子店の扉を開いた。
同僚の高塚に何か美味しい洋菓子店はないか、と聞いた。
聞かれた彼女はそれはもう面白いオーバーリアクションを決めてくれた。
苦笑しながらもオススメの洋菓子店を教えてくれた。
親切にも地図とオススメのお菓子を書いたメモも渡してくれた。
彼女の手料理は“彼”を待っている間に何回か食べたことがある。
結構、その辺の店より美味しかった覚えがあるため、少しだけ自信がない。
だがあのときも今も彼女に何かをしてもらってばかりなのだ。
何か自分もしないと。
それがどうして菓子の差し入れなのか、我ながら苦笑してしまった。
「芹沢さん」
「こんにちは」
喫茶店の扉を開くとちょうど彼女が迎え入れてくれた。
席に案内されて、俺はコーヒーを一杯頼む。
コーヒーを持ってくると同時に彼女は俺の隣に座った。
それが自然な流れなのだ。
「…芹沢さん、どうかしたんですか?」
「え?」
「緊張した顔なされてるから」
「え、ああ…」
しまった。
つい、柄にもないことをしてしまったため、いつ渡そうか考えていたら彼女を心配させるような表情をしてしまっていたようだ。
俺は不自然な笑みを浮かべながら大丈夫だと彼女に言った。
「しおりさん…あの…」
「はい?」
別に告白するわけじゃない。
なのに。
どうしてこんなに緊張するのだろう。
菓子を渡すのになんでこんなに心臓の鼓動が速いのだろう。
俺は深呼吸して、そして一つの紙袋を彼女の前に差し出した。
「あ、の…同僚にですね…オススメのスイーツを売っている店ってないかって教えてもらったんですよ。
それで…そのよかったら…」
「わぁ!ありがとうございます!あ…この店、知ってます!一度食べて見たかったんです!」
「あ…仁科さんの分も買って来たので…」
「ありがとうございます!中、見てもいいですか?」
「あ、どうぞ…」
選んだ菓子はシンプルスコーンとオレンジを生地に混ぜたスコーンの二種類。
ケーキには好き好みがあるだろうからこれがベストだろうと店員さんに言われたから選んだ。
「コーヒーにはビスコッティってお菓子がいいんですけど、でもスコーンもたまにはいいですよね」
「え、飲み物によって合うお菓子って違うんですか?」
「そうなんです。ほら、お酒に合う食べ物があるようにコーヒーと紅茶、それぞれに合う食べ物ってあるんですよ」
「ああ…」
しまった。
その辺も聞いておくべきだった。
そんな自分の失敗を他所にしおりさんはシンプルスコーンを一つ手に取る。
「いただきます!……わぁ、おいしい!」
「あ、ほんとだ…噂どおり」
「僕だけ仲間外れですか?」
三人でしばらくお茶会をしていると成瀬さんが帰ってきた。
「あ…ご無沙汰してます…」
「お久しぶりです」
これまた自然な流れでしおりさんの隣に彼が座る。
「………」
あまりにも自然すぎて言葉を失ってしまう。
「僕も頂いてもよろしいですか?」
「あ、どうぞ…」
成瀬さんはオレンジ入りのスコーンを手に取って食べた。
「美味しいですね」
「でしょう!」
自然と笑い合う二人、まるで恋人同士。
ちょっとだけジェラシーを感じた。
隣の仁科さんからこつん、と肘をぶつけられた。
『大丈夫、二人ともまだ恋人じゃないから』
安心しろ、と言った彼女の笑顔に俺はまた苦笑いをした。
そして、スコーンを一つ手に取った。