Brown Sea
冬なのに穏やかで暖かい風が流れている。
きっとそれは隣の少女のおかげだ。
そして、俺の手も温かい。
こんなことができるのは全てはあの男が時期外れの風邪なんかひいてくれたおかげだ。
痛いほど健気だから絶対表に出さないけれど、
俺も野ブタが好きだ。
だけど、学校や街を歩くカップルの姿の俺と彼女なんて想像できない。
どちらかというとその姿は彰との組み合わせの方がお似合いだ。
「修二…寄りたい、ところがある…」
「ん、別いいけど…」
俺の手を握る小さい手が恋しい。
だけど俺は決して表情に出さなかった。
出してしまったら、俺もあいつみたいに止まらなくなってしまう。
野ブタが連れてきた場所は、彰が話していた麦畑だった。
茶色一色しかないっていうのに綺麗に見える。
すぅ、と空気を吸えば、自然と落ち着いた。
「…彰、と前に来た…ここは、静かで落ち着くから…」
「…そっか…」
俺たちが毎日歩く都会の風景もここでは遙か遠い世界だった。
茶色の世界には俺と野ブタ、だけ。
心が落ち着くのは―
空と、麦だけのこの風景と、そして。
「修二」
不器用に微笑んで俺を呼ぶ優しい声の持ち主のおかげだ。
「ああ、ちくしょう」
ああ、目が痛い。目が痛いんだ。
目が痛いから涙が出てるんだ。
だから、見られても平気なんだ。
「修二」
彼女は何も聞かずに俺の頬に触れてきた。
彼女が触れてきたことをいいことに俺はその華奢な体を精一杯抱きしめた。
「大丈夫…」
俺の背中に触れた小さな手が愛しい。
たった一言の励ましが愛しい。
ありがとう、と意味を込めて俺は本心から彼女に笑った。
彰、ごめん。
今だけ、野ブタの笑顔を俺だけのものにさせてくれ―