CAVE
あの事件から四年経った。
彼の名前は結局あの日変えられたままになった。
もう一人の彼は仕事を続けることを選んだ。
それがあの人への罪滅ぼしなのではないか、と。
真実へ向き合いたい、と言っていた。
たまに弱音を曝け出しに来ても良いか、と言ったときはもちろんと答えた。
私は今度こそ二人とも救いたい。
そして…。
あの人は今、私の側にいる。
自由になったあの人は私の側に。
だけどどこか物足りなさを感じてしまう。
部屋が別だから?
隣に居ないと不安なのは今も変わらない。
不安にならないものが欲しい。
何があるだろう?
恋人?
ううん、そんなものじゃない。
もっと深い…。
「しおりさん?」
「はっ…」
「どうかしましたか?」
「い、いえ…」
私、今、絶対ふしだらな事を考えていたに違いない。
こんなこと、彼に知られたくない。
「しおりさんは…朝、いつもここでタロット占いを?」
「はい。これでも結構占いも当たる方なんですよ」
「………」
タロットカードを見る彼の瞳が切ないものへと変わった。
そうだ、このカードたちは彼にとっては悲しいものなのだ。
「あ、あの…成瀬さん」
「これ、どれか好きなのを一枚引けばいいんですか?」
「え?あ、はい…よかったらお好きなのを一枚…」
「それじゃお言葉に甘えて」
彼の手がすっと並べられたタロットの一枚を引く。
カードを返して結果を見た彼は小さく微笑んだ。
私は気になってしょうがなかった。
私の視線に気づいた成瀬さんが意地悪く笑った。
「ふふ、知りたいですか?」
彼のこの優しくて意地悪い微笑みに私は弱い。
気のせいだろうか。
彼が少しずつ私へ距離を縮めようとしている。
釈放されても行き先がなくなった彼を引き取ると先輩と決めたあの日から一歩ずつ私へ距離を縮めていく。
ほら、気づいたら唇が触れそうな距離。
「知り、たいです」
そう一言零すと、唇にほんのりと温かいものが触れた。
「“恋人”、だそうですよ。恋愛がうまくいく…良いことですね」
「恋している人、いるんですか?」
「いますよ」
私は下を向いた。
きっと私じゃない気がする。
「しおりさん、上を向いてください」
「………」
彼の優しい声が落ちても私の顔は上げられない。
困った成瀬さんは私の顎を指で持ち上げた。
「えっ!?」
「わざと、ですか?」
深く、深く、口付けられる。
「んっ…」
落ちていく。
甘い、甘い、甘い、綿菓子で出来た蜘蛛の巣へと。
「あなたに恋してるんですよ、しおりさん」