愛しくて
「今月、家賃…その」
「払えないってわけか」
「ごめんなさい」
「……ま、貧乏だもんな」
いつもならかちん、とくる言葉が今日は何も感情が湧かない。
それはきっと、優しさが含まれている。
あるいは、何か企みがあるか。
それとも何もないか。
きっと何もない。
そう思って、部屋に帰ろうと下げていた顔を上げると目の前には男の手があった。
その手は私の頬に触れた。
「…な、に」
冷たい手。
「なんか甘いもの」
「え?」
「甘いもの、作れ。ここのところ、食べてねぇんだ」
「家賃払えなくなるわ、材料買わなきゃ…」
「じゃあ、これでいい」
そう言って、男は私の唇を自分のそれで塞いだ。
一分、二分、どれくらいだろう。
息が苦しくなってきた頃にやっと解放される。
「ごちそうさま」
男は優しく微笑んで、部屋へと入っていった。
私はただそこにしばらく呆然と立っていることしか出来なかった。