Love a Trick



目を覚ませば、天井…というのは当たり前だ。

ただ違うのは部屋の中が散らかっていること、とにかく暗いことくらいだ。

起きようと起きれるのだろうが手首に擦れた痛みを感じた。


「よう、貧乏。よく寝れたか?」
「…何のつもりなの。」
「ちょっとした罰、だ。かれこれ二ヶ月近く、家賃を滞納してくださってるからな。」
「……詐欺師がこんな堂々とした犯罪を犯していいのかしら。」
「いや?これは犯罪じゃない。」
「……どこがよ。」


彼の指先が自分の唇に触れた。
自分より綺麗な指先だと思う。
触れられることが分かっていたならリップクリーム塗ってくればよかったな、なんて呑気に考えてしまう。

監禁に近いことをされても不思議と冷静だった。
この男の言うとおり、きっとちょっとした悪戯なのだ。

この男が自分に本気になる日なんて来ない。
来たとすればそのときは自分が夢を叶えた日だろう。


「仕事上手くいったの?」
「どうしてそう思う?」

男は自分の胸元から一線をゆっくり描くように指を滑らせる。
自分の体が震え上がるのを私は我慢した。

「…だって私に悪戯する余裕があるくらいだもの。」
「その通り。さすが吉田さん、俺のことよく分かってるね。」

自分のことをよく分かっている、と褒めるその男の笑みが優しく見えたのはきっと錯覚だ。
いつだってこの男が向ける笑顔は欺くものばかり。
そして、私もこの男に微笑んだことなんてない。


「……吉田って意外と胸あるんだな。」
「…っ。」


私の体の下まで這っていた指先は気づけば、上に戻ってきて私の胸の形に沿って動いていた。
男は器用に空いた片手で私の胸を覆う下着ごと私の着ている服をたくし上げた。


「お前って初めての相手とか気にする?」
「分からないわ。」


からかう男の声に私は正直に気持ちを言った。
だって私は恋で悩んだのは目の前の男のことが初めてでどうすれば良いのか分からない。


「でもそうね。知り合いの方が良いかも。」

「その許される知り合いの中に俺は入ってんのか?」

「分かってて言ってるでしょ。」

「当然。」


男は笑って、そして露になった私の胸に口づける。

「ちょっと…そんなところ目立つじゃないの。」

私の怒る声にも男は無視して跡を残すことを止めない。

男は私の胸元から離れると私の顔まで自分の顔を近づけた。
その距離は鼻と鼻が触れてしまう近さだった。


「言っただろ?ちょっとした罰って。」
「罰にしては大き過ぎるわ。」
「こんなの全然序の口、だ。」





また男は笑いながら私の唇にそのまま自分の唇を重ねる。

男が施すキスは本当に欲望をぶつけるかの如く激しかった。
ちょっとでも逃げようと顔を横に動かせば容赦なく私の額に手を当ててベッドの中へ押し付けながら深く口づける。

「……んぅっ…!」

たまに解放されると思えば呼吸を整えさせるためだけで、整えばまた口づけられ。
しばらくその繰り返しだった。

「…はぁっ…。」

解放されればどちらの唾液か分からない唾で濡れた私の唇を男は自分の舌で舐めた。


その後に私の体の上に圧し掛かった男は私を見下して言う。


「罰だよ。今からするのは。」

「や、家賃の?」

「違う。」


男は急に真剣な表情になる。

私の露になった胸が激しく上下に動いているのが見えて少し羞恥心を感じたがそれより目の前の男の表情に集中した。


男は手を伸ばして私の頬を撫でる。その手の動きが優しいように感じた。
優しくてもこの男のことだ。きっと安心させて警戒心を解く方法なんだろう。
それが分かっていても私にはその手の動きに涙が出てしまう。


「……俺を、好きになった罰、だ…。」


そう言って男は私の下半身も露にさせる。

下半身から水のような音がなったとすればそれは足から流れた涙なのか、どんな形でも男に求められて喜んでいる女としての喜びなのかは分からなかった。




「……あ…!…くろ…黒崎…!」

体内に宿る自分ではない熱が熱過ぎて苦しくて、手を伸ばしたくて、でも手は縛られていて。

「罰、だ…。」

男は苦渋の表情を浮べながらも笑っていた。

男はわざと避妊具など使わず(でも仕事先でも使うことがあるだろうから持っていると思う)、剥き出しにした男の欲望でそのまま私の中を貫く。


「…っ!!」


お互いに限界を超えれば、男は容赦なく私の中に一滴も残さずに欲望の塊を注ぐ。

零れてしまったらそれを指で掬い上げて私の口の中に入れる。

私が液の苦さに苦しんでも男は私の体内から出した自分のモノを口の中をこじ開けさせて入れ込む。


「…後処理忘れんなよ。」

「んっ…んぅ…!!」


後処理、とか言っておきながらまた新しい欲望の塊を男は放った。




意識が遠いていく中、私は息苦し紛れに男にこう言った気がする。

「だ…って…しか…た…ない、じゃ…ない…。すき…になって…しま…ったんだ、もの…。」

目元から涙が一滴頬を伝って、私は意識を放した。


男が優しく微笑んで言ったことを私は知らない。


「…じゃあ、この罰はしばらく続くな…。」


罰が続くことを男は喜んでいた気がする。

男は縛られている私の手首から肘まで薄く見える血管に沿って舌を這わせた。

そして最高の優しい笑みを浮かべて。



「…おやすみ、氷柱…。」

















途中まで本気だったんだ。
お前に俺をあきらめさせることに。
どこまでも甘いお前に現実を思い知らせてやろうと。

だけど触れた肌があまりにも依存性の副作用でも持っているのではないのかって思うくらい心地良かったんだ。

これは俺を好きになることを止めようとしないお前への罰であり、お前にあきらめて欲しくないとお前に甘える俺への罰でもある。

でもな。

いっそこのままお前が俺をあきらめないで俺からの罰を受け取り続けてくれたら良いとか思っている。

贅沢を言えば、その縛り付けた手首を自由にして俺に触れて欲しい。

だけどそれは出来ないさ。

自由にしてしまえば終わりが来る。


終わりなんか俺の復讐だけで十分だ。

お前との終わりなんていらない。


そう、これは“罰”と言う名で俺とお前が唯一愛し合える時間なんだ。

お前は知らなくていい、俺が知ってればいいんだ。


さぁ、今宵はどんな罰を与えてやろうか。





氷柱。