…少しばかり優し過ぎる(優太→希美)

自分の姉は優し過ぎる。

東京に姉を訪ねてみれば、いつもの如くトラブルに巻き込まれていた。

昔からそうだ。

姉は悪いことどころか良いことばかりしてるはずなのにいつも悪い立場にやられている。

親戚の家でお世話になっていたときなんかが良い例だ。
自分には優しかったおばさんは姉には冷たかった。
今思えば、優しくされても好きになれなかったのはそのせいだったかもしれない。

子供だったから何もできなかった。
それどころか傷ついてばかりの姉に守られてばかりだった。

だから決めたんだ。

東京に出たら俺が絶対姉ちゃんを守るって。

なのに気づいたら今は自分の知らぬ間に姉を守る人たちが増えている。

その人達といるのは俺も楽しい。

栄田さんといるときの姉は本当に幸せそうに笑うし、栄田さんも楽しそうだった。
本当に仲が良い。

だけど時々寂しく感じることもある。

ねぇ、時々は二人でゆっくり話したいなとか言えば姉は素直に頷いてくれるだろう。

だけど姉にとってそれは弟としての俺の甘えにしか聞こえない。


甘さを許してくれるその笑顔が今はちょっとだけ優し過ぎて、胸が微かに痛んだ。



+

束の間の休息(黒崎→氷柱)

「…どうしてあなたがここにいるの。」

その女は帰宅するなり、不機嫌な声を出した。

俺は女の冷たい視線を気にせず、おかえりと言う。


「…いくら大家でも不法侵入じゃないのかしら、これって。」

「家賃滞納している人も考えものだけどな。で、飯は?」


俺は飼っている黒猫を指した。

猫がいればこいつはこれ以上俺を咎めない。


「…いつもなら飯やるなとか言うくせに。」


文句言いながらも猫の餌の準備をする女。


「…お前の飯の方が好きらしくてな…よく餌付けられたなー、お前。」

俺が皮肉を込めて言うと女はまた俺を睨んだ。

「あなた、飼い主の癖にまともな食事与えてないじゃない!
 そもそもあなた自体がまともな食事取ってないっていうのもあると思うけど…。」

女は猫に餌を与えた後、食事の準備に取り掛かった。
量を見る限りだと二人分ほどあった。
どうやら俺の分も作る気らしい。

「…俺、飯食いに来たわけじゃないんですけどー。」

「わかってます!クロちゃんのついでよ!ついで!」

ついで、という言葉を強調する女。

俺は思わず苦笑した。


「…食事相手がいなくて寂しいんだろ、吉田さん。」

「吉川です。それに寂しくないわよ。私、そんな寂しがり屋じゃないもの。」


食事の準備をしているせいか俺に背を向けたまま答える吉川。


「………。」


まな板に当たる包丁からリズムの良い音が流れる。

もう二度と聞くはずのないと思っていた音。

そしていらないと思っていた音。


「………。」


横になって天井を見上げれば猫の顔。


俺がただの人となる唯一の空間。


鷺だってずっと飛び続けるわけじゃない。


たまには休みたくなる。


ここが俺の唯一の休憩できる場所。


+

光と隣り合わせの闇(黒崎→氷柱)

どんなに暗い部屋でもカーテンの隙間から必ず嫌でも一筋の光が入ってくる。
その光ほど憎いものなんてない。

自分には光はないだろうし、欲しくもない。
もしこの朝の一筋の光を遮るものがあるというのなら今すぐにでも寄こして欲しい。

そう毎日思いながら今日も体をベッドから渋々と放していく。



朝刊を取りに行こうと部屋を出て、階段を降りようとすればもう一つ消えて欲しい光のことを思い出した。
朝の光以上に最も消えて欲しい光。


その光と例えた女はどんなに罵っても離れようとしない。


最近は諦め時かとあまり出て行けとは言わなくなった自分がいた。

そう。

朝の光と一緒だ。仕方なく受け入れなければならないものだ。


きっと自分はあの女の闇だ。


光には闇が、闇には光が必ず隣にいる。


ならあの女は自分の光だろう。


それが救いとかいう最も欲しくないものかどうかはまだ判断出来ないけれど―。



+

お疲れ様、ありがとう(信子)

後悔してない。

このまま三人いることでいることを願ってはいたけれど。

彼らはどうか分からないけど私はこのままではいけないと思った。


もうちょっと強くなれたら、自分に自信を持てれたら、そのとき彼らに会いに行こう。

そして改めて言うんだ。


「ありがとう」って笑ってね。

+

喩えるならば木漏れ日のような


いつもその男は私の心の中にある隠れた僅かな黒の隙間に入り込んでくる。

人には干渉するなと言うくせに私の中に入り込んでくる。



朝に男に挨拶しても私に対して憎まれ口を叩くか無視するかどちらかしかない。
私もあきらめればいいのに懲りずにまた声をかけてしまうのだ。


朝にポストへ行けば案の定、男はいた。
朝刊を熱心に読んでいるご様子。
それはそうだろう。彼の仕事のネタがいっぱいあるのだから。


集中しているのを邪魔するのは悪いと思い、彼に声をかけないままポストから朝刊を取る。


彼は此方の方など見ないまま、朝刊を読み続けていた。


これでよかったんだろう。

よかったんでしょ?


なのに。


どうして背中を槍が貫いたような痛みを感じるのだろう。