Prisoner


目の前が真っ赤になった。
真っ赤な世界。

私は男の人を抱きしめていた。

抱きしめていた手が放れて、私はその放した手を見た瞬間に悲鳴を小さく上げた。

それは血だった。

男の人の背中からは血が流れていた。

私はおそるおそるその男の人の表情を見た。

「?!」

それは知っている、いや誰より好きで救いたい人だった。

気づけば、私の周囲には人が何人も立っていた。
その顔ぶれの中には知っている人が数人いた。

親友が言った。

『あんたが殺したのよ』

彼を追う刑事が言った。

『そいつは救いなんて求めていなかった』

彼を縛る人が言った。

『踏み込まなければよかったのに』

私は泣いて言葉の数々を拒否した。

違う、違う、と何度も叫んだ。

すると死んだ、と思っていたはずの彼の瞼がゆっくりと開いた。

そして鋭い視線で私を見て言う。

『全て、お前のせいだ』



「…黒、崎…っ…!」

彼の名前を呼んだ瞬間、私の視界は赤から黒へと変わった。
薄らと見える部屋の光景から夢から覚めたことに気づいた。
それから私は溜め息をついた。

「おい」
「…っ!」

真っ暗な室内に聞き覚えのある声が頭上から聞こえた。

「近所迷惑なんだよ」
「…黒、崎…?」

私は無意識に彼に抱きついた。
おい、と戸惑う彼を無視して私はただその体に抱きついたままだった。

「なんだよ…おい」

彼は私を引き離すことをあきらめた様子だった。

「まさか悪夢でも見て一人で寝れなくなったとか?」

からかうように彼は言う。
私はその言葉に何も言えなかった。
事実だったからだ。

「図星かよ。だからって俺に抱きつくのやめてくんない」

今度こそ彼は私を引き離そうとした。
私は意地になって彼から離れまいと彼に強く抱きついた。

「あのなぁ…子供じゃないだろ、お前も。それとも何?誘ってんの?」

どんなからかう言葉でもいい。
私を軽蔑する言葉でもいい。

あなたがそこにいてくれるなら。

「…なんか言えよ」
「…夢を見たの」
「…暇だからどんな夢か聞いてやるよ」
「あなたが」
「ふーん、そりゃ家賃プラス出演料も頂かないとな」
「死ぬ、夢」
「……へぇ」
「しかも、私が殺した」
「…そりゃ確かに悪夢だ」

彼は苦笑して言った。
そしてそのまま倒れてきて私は彼ごとベッドへと戻っていった。

「…生きているって証拠やろうか」

彼は私の寝着のボタンを淡々と外していく。
私はその手をただ黙って見つめていた。

「…出演料じゃなくて?」
「まぁそれもある」

そうして私は彼の頭の後ろに手を回した。






隣に眠る女の髪をそっと撫でた。
行為を始める前に女が言った言葉を思い出す。

『私が殺した』

ずっと夢でも現実でも見続ける悪夢に終止符を打つなら?

狂いそうなほど愛しいこの女に殺されるのも良いかもしれない。