ちょっとだけ延長線
別に完全にあきらめたわけじゃない。
ふられたって彼女を好きな気持ちは変わらない。
ただ彼女にはその延長線の感情が自分に対してなかっただけで。
もう彼女の正体が完全に知れ渡ってしまって初めて彼女と二人きりになった。
随分、久しぶりな気がする。
ちょっとまだ後遺症が残っていて胸の高鳴りはどくどく言っているが。
「…なあ、中津」
「ん?」
「やっぱ、男は胸が大きい方が好きかな」
ああ、そういえば彼女は女とばれないためにさらしを巻いていたのだった。
正体がばれた今でも巻いているようだが彼女曰く巻かなくたって男と通じようと思えば通じる胸らしい。
「まあ…どちらかといえばな」
「中津は巨乳好きだよな、欧米サイズ」
「おう」
確かに巨乳は大好きだが瑞稀だったら俺は別にどんなサイズでもかまわない。
胸のサイズでふと俺はあることを思い出した。
「…好きな奴に揉んでもらうと良いって説があるらしいけど」
きっとこの説を聞いた瑞稀は夜にでも佐野へ頼み込んで彼を思いっきり困らせること間違いないだろう。
次の日、制裁をくらうのは間違いなく俺だ。
開き直ったせいか以前みたいにたいして恐いとも思わない。
瑞稀が来るまで佐野のことをからかう奴なんてほとんどいなかったが彼女のおかげで今は俺に負けないくらいのいじられキャラだ。
「じゃあ中津!」
瑞稀が勢いで俺の手を握ってきたから俺は一気に現実に戻った。
「揉んでくれ!」
………。
………………。
「はい?」
いやなんとも素敵な発言が聞こえた気がしましたが気のせいでしょうか。
また俺の妄想の始まり?いかん…瑞稀のせいで妄想癖が出来ちまったな、俺…。
「中津!聞いてんのかよ?」
「あ、ああ…」
「じゃ、揉んでくれ」
よっしゃ!現実!
その願い、ぜひとも叶えてやりましょうとも!
あ、ついでだからCまでいっちゃう?……って違うだろ!!
「あのな、瑞稀。佐野にしてもらえよ」
「え。好きな奴から、だろ?だったら中津もじゃん」
ああ!この子、恋愛と友情が混同してらっしゃるよ!
「…いや、その」
「駄目?」
来ました。無自覚子犬上目遣い。何度この目線に俺はやられたことでしょう。
今もばっちりやられてます。
「…………駄目じゃない」
―ああ、俺ってなんて欲望に正直…。
誰かに見られては困るので俺はドアの鍵を閉めた。
いいか、これはあくまでも瑞稀がいつか迎えるであろう初体験を失敗しないためにだ。
あくまでも友達として協力するのだ。
「じゃ…さ、ささ…触るぞ…」
「おう」
手がとてつもなく震えている。
そりゃそうだ。実際、女子の胸に触るなんて初めてのことで。
それがたとえまな板だろうが緊張はする。
『ふに』
初めて触ったそれは小さいとはいえ男にはない柔らかさがあった。
その手触りに思わず息を呑む。
手に馴染むように優しく何度も揉めば彼女が小さく声を上げた。
その声の高音に彼女はやっぱり女なんだと納得してしまう。
気づけば頬を赤らめた彼女と俺は近距離で彼女の柔らかい唇が目の前にあった。
駄目だ、と言い聞かせながらも左手で彼女の細い腰を自分の元へ引き寄せる。
「…な、かつ?」
ごめん、と一言言って俺は彼女の唇を塞いだ。
「…ん」
行動に出てしまえばもう自制なんて効くはずもなくて。
ただ貪るように彼女に口づける。
「…んっ…」
「瑞稀…」
自分でも驚くくらいの色香が漂う声が出てこのままじゃこれ以上の行動にいってしまいそうなときにドアのノック音が聞こえた。
「芦屋?」
「「!!」」
佐野の声がドア先から聞こえて俺と瑞稀は慌ててお互いの体を引き離した。
「み、みみ…瑞稀、深呼吸、な!」
「お、おう!」
俺と瑞稀は思いっきり息を吸い込んでまた勢いで吐いた。
これでお互い自然体、のはず。
「佐野、わりぃ!今、開ける!」
瑞稀が慌ててドア元へ駆け寄り、鍵を開けた。
「着替えでもして…なわけないか」
部屋に入ってきた佐野が俺を見るなりため息をついた。
「れ、練習、お疲れだな!」
「おう」
佐野は俺たちの動揺っぷりに怪訝な顔をしながらもシャワー室へと入っていった。
「ふぅ〜…」
「うお〜…」
俺たちは同時に思いっきりため息をついた。
「瑞稀、あれでわかっただろ?だからああいうことはな、佐野だけに頼め」
「お、おおう…」
顔を真っ赤にしながら頭を縦に何回も振る瑞稀。
そんな彼女の頭をわしわしと撫でて俺は部屋を後にした。
壁に寄りかかってため息をまたひとつついた。
思い出すのは彼女の唇の柔らかさと手の中に残る彼女の小さな膨らみの感触。
「……やっぱ、そう簡単にはあきらめられねぇか…」
今夜は寝床の側にティッシュは必需だな、と思い、苦笑しながら俺は自室へと戻っていくのだった。