真夏のsuccubus



浴衣なんて着るの何年ぶりだろう。

再び着るきっかけになったのは夕有子先輩のお祖母さんが私のアパートを訪ねてきたことから。
お祖母さんはあの事件の後も時折、料理を教えに訪ねに来てくれたりする。
明日、近所の公園で夏祭りがあると孫から聞いたので、と言って浴衣を持ってきてくれた。
きっと先輩から同時に私も行くことを聞いたのだろう。

「ふふ、よくお似合いよ、氷柱ちゃん」
「あ、ありがとうございます…」

浴衣は先輩の使っていた一枚で、白い紫陽花がポイントの薄緑色の物。
丈は私が着るには少し長いから、とお祖母さんが余分な部分をカットしてくれている。

「きっと男の子たち、ほうっておかないわね。しっかり夕有子にボディーガードさせなくちゃ」
お祖母さんの言葉に私は苦笑する。
「…先輩の方が危険だと思いますよ?」
「ああ見えて、腕っ節あるのよ?あの子。だから大丈夫、大丈夫」
私の言葉にお祖母さんは笑って返す。

ぽん、とお祖母さんが手を叩く。

「そうだわ、隣の詐欺師さん、いらっしゃるかしら?」
「え?」

黒崎の名前を上げられて私は動揺する。
私がどうして動揺するのかお祖母さんは、やぁね、依頼じゃないわよと笑って言った。
私はそれを聞いて安心する。

「せっかくだからまずあの人に見てもらいましょう」
「え…いや…その」

見せてもお祖母さんの前ではお世辞は言うだろうけど、二人っきりになった途端に、似合わないとかどうせ言われるに決まってる。
そういえば、あいつを今日は見てない。
たぶん、仕事だろう。

お祖母さんが玄関のドアを開けて廊下に出てみれば、偶然にも仕事帰りと思われるあいつが部屋の前にいた。

「あら、ちょうどよかったわ!」
「…何がっすか」

あいつは案の定、私とお祖母さんを見た瞬間、不機嫌な顔になった。
お祖母さんはそんな反応を無視して、私をずいっとあいつの前に出す。

「明日、近くの公園で夏祭りがあるのよ。だからね、ちょっと氷柱ちゃんに着せてみたんだけど。
 どう、似合ってるでしょう?」
「…はぁ」

そして、たいして興味なさそうに私の姿を見るあいつの反応も予想通りだった。

「…見せる相手、間違えたかしら…」
お祖母さんはぼそりと呟いた。そうです。見せる相手が悪いんです。ああ、気づいてもらえた。

お祖母さんの携帯が鳴り出す。
どうやら先輩から家に戻ってくるように、と連絡があったらしい。

「あらら〜…氷柱ちゃん、脱ぎ方わかる?」
「あ、大丈夫です、わかります」
「ふふ、じゃあまたね」

車に乗ったお祖母さんが窓から元気良く手を振ると私も手を振って見送った。

そして、私と黒崎の二人になった。

「……」

あいつは私の姿を見ていた。言いたいことはわかる。
言われるのが癪だから先に言ってやろう。

「わかってるわよ、似合わないって言いたいんでしょ」
「うん、さすが吉田」

私が予想を当てるとあいつはすっごく嫌味たっぷりな笑顔を浮かべた。
ああ、もし下に履いてるのがヒールだったら足を踏んで大ダメージを与えられるのに。

「ところで、吉田さん」
「何?」
「ちょっと来い」

そう言って黒崎は私の手首を掴んで、階段を下りていく。
私は体勢を崩しながらも、なんとか転ばないで下りることは出来た。

黒崎に連れてこられたのはアパートの裏の茂み。
そういえば、このアパートの裏側って綺麗に隠れているような気がする。
あいつがこっち側で仕事してもばれなさそうだ。それも視野に入れてこのアパートを選んだのかもしれない。


…ばれない?


私は嫌な予感がした。


そして、嫌な予感はあいつが口に出した次の言葉で見事当たった。


「吉田、お前、本当に脱がし方わかんの?」
「わ、わかるわよ…」
「ふぅん…でもさ、その浴衣、人からの借り物だろ」
「…な、なんでわかんの…」
「だってお前がそんなの買える金なんかないだろうから。つーか、あったら先に溜めてた家賃払ってもらいますから」
「………」

私は黒崎から距離を取ろうとするが逃げ道は彼の後ろしかなくて、壁に背中が当たってあっさりと捕まるしかなかった。

私を追い詰めた彼はまるでシロサギを見事詐欺にはめたときに浮かべるような憎たらしい笑みを浮かべていた。

「脱がすの、手伝ってやるよ」
「…べ、別に手伝わなくていい…そ、それにここ…外よ…」
「外だな」
あいつは私の制止する声や睨む視線を無視して、浴衣の合わせ目に手を入れた。
「…っ…脱がし方、わかってないの…あなたの方じゃないの?」
合わせ目をずらされて右肩が露になってしまった。
左側もずらそうとする黒崎の手をなんとか止めようと彼の手首を掴んだ。
「浴衣汚すわけにはいかねぇだろ、てか、吉田ぁ、浴衣の下にブラなんか着けてんじゃねぇよ」
「べ、別にいいじゃないっ…これ、試着みたいなもんなんだからっ」
「ふーん…じゃあ、本番はつけねぇんだな」
「…た、たぶん…」
「……」
私の答えに黒崎はなぜか不機嫌そうな表情を浮かべた。

「吉田、本番は着けていけよ」
「…は…?でも、あなた、さっき…」
「今は着けなくてもいいけど…本番は却下」

……それって…。
私は今の自分の状況を理解しておきながらも彼のその言葉に思わずにやけてしまった。

「なんだよ、気持ちわりぃ」
「だって…それって一応心配してくれてるってことでしょ?」
「はぁ?ほんとお前、めでたい頭だな。着けなかったらお前の胸の小ささがばれるだろ」
「なっ…」

そう言いながら彼はいつの間にか自分の手首から私の手を除き、私の右肩も露にさせていた。
そしてブラのホックまでも外していて露になった私の乳房を両手でやんわりと包んでいた。

「…俺はお前の色気アップのために助言しただけだ」
「……っ…なによ、それ…どうせ着けようが着けまいが私に色気なんてないわよっ…」
「…わかってんじゃん…」

耳元で黒崎の艶を含めた声が響く。ふぅ、と息を吹きかけられて、びくん、と私の肩が震えた。
乳房を包んでいた手は乳房の形をゆっくりと変えていく。
浴衣の下部分の隙間に黒崎の左足が入り込んで彼の太腿が私の中心に当たる。

「…んっ…」

露になった私の背中を黒崎は背筋に沿って舌で辿っていく。
乳房を揉んでいた手のうち、片手の指がそれの突起を挟んで軽く捻る。

「…あっ…っ…」

私の足の間に入り込んだ彼の太腿がゆっくりと動いたと同時に、下着越しから私の秘部にそれが触れて感じてしまう。

「…んっ…」
「…吉田…もしかして…ここ、感じてる?」
「…なっ…そんなこと…んっ…」

黒崎は私の反応を見てから、にやりと嫌な笑みを浮かべて入り込ませた足の膝を前後に動かす。
私の下着にそれが擦れて、直接触れられていないのに秘部が少しずつ潤い始めることを私は悟った。

「…やっ…ん…」

乳房の突起に舌を這わせながらも黒崎は膝を動かすことをやめない。
確かに感じてしまうけれど、どこか物足りない。
だけど気づかないふりをしないといけないと思った。だって負けな気がするもの。
そう簡単に快楽に溺れたくない。

「ふぅん…直接触れてないのに濡らしてんじゃねぇか、お前」
「…う、うるさい…っ…んん…」

反抗しようと思って口を開こうとすれば、あいつの唇が重なる方が早かった。
重ねてくるなり、いきなり舌を入れようと私の口をそれでこじ開けようとする。
そして見事入り口は開いて、舌が侵入してきてあっさりと私の舌を捕らえる。
ねっとりと厭らしい動きで舌を絡ませていく。口元から涎が流れてもお構い無しにあいつは舌を絡ませて口づけてくる。

解放されてすぐに言われた一言はとんでもないものだった。

「なぁ、吉田さん。俺、仕事帰りで疲れてんだよね」
「だ、だったら…やめればいいじゃない…っ…」
「…やめねぇよ。で、吉田さん?」
「なに…っ!?」

あいつに手首を掴まれて、導かれた場所は…あいつの…あいつの…っ!!

「な、なな…」
「癒してくれよ、吉川さん」


お願い、と強請るように私の唇に軽くキスする。
そして顔を上げて、あいつの顔を見れば満面の笑みを浮かべたあいつがいた。
この笑顔を見せたときは絶対逆らえない合図だった。





「…ん…っ…」
「…相変わらず下手だな、吉田…」
「…うる…さいっ……ん…っ…」
「…ん…もうちょっと下、舐めて」

私はあいつのモノに手を添えながら、それに舌を下に這わせていく。
舌を動かす度、私の頭に添えられた黒崎の手が微かに震えて、それを感じ取った私は無意識に愛撫に熱中する。

「…っ…」

下手と罵る割には黒崎はしっかり感じていてくれるらしい。
私はそれが嬉しくてつい、自身の先端に口づけた。

「…っ…積極的だ、な…」

あいつも負けず嫌いだから笑みを崩すことはない。
私も負けないように先端に何回か口づけて、それから舌を這わせる。
先端から少し白い粒が浮かんだ。

「…んっ…」

それはきっと彼の限界が近いのだろうと私は思い、手でゆっくりそれを擦りながら先端に舌を這わせる。

「…よし、だ…っ…」

私の頭に添えられた彼の手に力が入る。
私は限界を促すために思いっきり彼のモノを口に含んだ。
ちょっと息苦しさを感じたけれど、彼のモノを愛撫するのは初めてではなかったのですぐに呼吸できるようになった。

「…っ…」

彼が思いっきり突き上げて私の口内の奥までモノを進ませれば、それが限界の合図。

「…んん…んっ…」

彼の手が私の頭を思いっきり掴んで離そうとしないため、吐き出せなかった。
自身から吐き出された粘液がとろりとろりと私の喉を通っていく。



「…ちゃんと残さず飲めよ…吉田」
彼のモノが私の口内から離れても彼は最後の一滴まで飲むようにと私の口元を手で押さえる。
「…っ…」
その苦さに耐えられない、だけど飲まないとこのままじゃ窒息死させられてしまう。
なんとか飲み干すと、それを見届けたあいつは手を口元から離した。そこで初めて呼吸が出来た。

お互いの呼吸が整い合わないうちに黒崎は次の行動に移った。
浴衣の下の裾を捲り上げて、私の下半身を露にさせる。

「そこの壁に手をつけろよ」

私は言われるまま両手を壁につけた。偶然にも尻を突き出すような格好になってしまい、
慌てて体勢を整えようとするが黒崎の手が私の下着に触れて、整え直すことが不可能になってしまった。

「うわ…濡れ濡れ…吉田、やらしい」
「…っ…」

耳元で囁かれて、ぴくりと腰が震えた。
座り込んでしまいそうだが、あいつの手が私のお尻の掴んでいたおかげで耐えられた。

「…あっ…」

急に体に涼しさを感じた。それはあいつが私の下着を脱がせて秘部を露にさせたせいだからだった。

「…やっ…あ…」

露になった秘部の境目を黒崎の指が、すぅ…となぞる。
その瞬間、びくりとまた体が揺れた。

指は決して私の体内に入ることなく、ただただ境目を撫でる。
その間も体内から生まれた体液はとろりと流れる。

「…っ…」

私の体温が上がるばかりだった。きっと黒崎は笑っているだろう。

ふとあいつの空いた手が私の乳房の突起に触れる。
感じてはいたと思うけどそれより秘部の方に意識がいってしまう。
熱を持って何かを求めている。
だけどそれを口にしたら負けな気がする。
絶対この男の言うとおりになってやるものか、と、きゅっと下唇を前歯で噛んだ。

「…吉田」
「…な、に…」
「さっきから感じ悪いな、お前」

耳元から聞こえるあいつの笑いを堪えたような声。
そう、この心臓に悪い低い声が私をいつも快楽へ誘導していくんだ。
きっと、今日も。

「…べ、別に…嫌なら、他の人でも抱けばいいじゃない。いくらでも、いるでしょ?」

それを認めるのが悔しくて憎まれ口を叩く。
でも間違いじゃない。
そう。
こいつが私を抱くのは好意からなんかじゃない。

ただの悪戯。

どんな理由でも彼から私を求めることが嬉しくて、だから抵抗できなくなってしまう。
結局、私もただの恋する女なんだってわかって、また泣いてしまう。

黒崎が急に黙り込んだ。
そして、しばらくすると大きな溜め息が聞こえた。

「……鈍すぎ…」
「……え…あなた、もしかして…」
「……」

柄にもなく、黒崎が困った表情を浮かべていた。微妙に頬が赤い。
なんだ、こいつ、こんな顔できたんだ。

「…自信ないの…?」
「………」

無言は図星、ということで私は妙に納得してしまった。
詐欺では自信たっぷりの黒崎だけど、男女の関係については私同様、まだまだ経験不足だったようだ。
と言っても、未熟度は大分違うけど。

「…吉田…」

ドスが聞いたあいつの声が聞こえた。どうやら当てられて怒っているらしい。

おそるおそる後ろを振り向けば、やけに影が差したあいつの顔があった。


「外だから少しは優しくしてやろうかと思ったけど…やっぱり激しいのがお好みみたいだな?」





なんとか私の欲望を曝け出すことは避けられたけど、その代わりにあいつの欲望が体内に入り込んでくる。
それも一気に奥深く。
腹部が避けられるんじゃないかっていうくらい深く入り込んでくる。
アスファルトと土が混ざった地面に染みが広がっていく。

「…ん…あっ…あ…」
「吉田…欲しかったんだろ?」
「…んっ…ちが、う…っ…あっ…」
「お前、素直じゃねぇもんな…」
「あな、た…ほどじゃ…ないわっ…やっ…深い…」
「よくもまぁ…減らないお口で…」

そう言って、あいつは強く腰を打ちつけた。
いつもと違って、背後からだからあいつの獲物を罠に嵌めて喜ぶ黒い笑みは見ることが出来ないから多少は耐えられるけれど
それ以上に繋がりの深さの大きさが上回った。

「…まだイクのは早いよ、吉田さん」

激しかった律動が急に緩やかなものへと変わる。
それだけでも私に新たな快楽を与えることに変わりは無いけれど。

あいつの手が伸びてきて、顎を掴まれる。そして、自分の方へと私の顔を向かせる。
きっとぐしゃぐしゃだ。きっと今、世界一醜い顔している。欲望に塗れた女の顔。
なのに、そんな私の顔を見たあいつは笑うことも無かった。
一瞬だけ驚いたように目が見開いて、そして、こくん、と唾を飲む音が聞こえた。

そして、そのまま私の唇に自分の唇を重ねてくる。
私も理性なんか捨てて、すぐに侵入してきた舌を迎え入れた。
その間も体内で異物が蠢いている。

「んっ…んん…っ…」

私も彼も、もう場所なんて関係なかった。
ただただ求め合うだけ、求める理由がお互いわからないにしても。

結局、私もあいつも立っていられなくなって、黒崎が先に地面に腰を下ろす。

「吉田、来いよ…」

あいつが挑発するように手を差し出してくる。
私は行為から来た体の熱さのせいにして、その手を取って腰を下ろす。

「…んっ…」
「…せっかくの浴衣も皺だらけだな…」
「誰の、せいよ…」
「お前のせいだろ」

黒崎はそう言って、目の前にある私の乳房の突起を口に含んで軽く噛んだ。

「あっ…」

体があいつの正面に回った途端、あいつは私の首元と胸元にいっぱい赤い印をつけていく。
これじゃ夏祭りに行けないじゃない、と非難すれば、あいつはそんなの知るかと答える。
そして下から突き上げてきたものだから私は何も言えなくなった。

「夏祭り…そんなに行きたい?」
黒崎は突き上げながらそう聞いてきた。
「…そ、んなってわけじゃないけど…久しぶりだから…」
私は息の荒い声のままで答えた。
それを聞いた黒崎は、にやりと笑った。

…嫌な予感がする。

体内は熱いのに表面だけ一気に体温が下がった気がした。


「じゃあさ…浴衣、汚したくないよな?」
「そ、りゃ…皺は…アイロンかけたら間に合う、んっ……し…あっ」

黒崎は私の体を力入れて抱きしめると一気に速度を上げて突き上げてきた。

「やっ…あ…!」
「ちゃんと、受け止めろよ?」

そう言って笑う彼は小刻みに揺れる私の乳房の突起を噛んだ。
そして繋がりの境目にある突起を指で思いっきり摘んできて、そのせいで体温が一気に上がる。
彼の呼吸も大分荒くなっていた。お互いの限界が近い。

「あっ…も、う…!」
「…つら、ら…っ…」


体内に温かいものが流れ込んでくる。
それの熱さに耐えられなくて腰が浮きそうになるけど、決して彼はそれを許さなかった。
私も許して欲しくない。許されたくない。

結ばれないならせめて残して欲しい。

いつも彼との行為の後、そう思う。


涙を一筋流して意識がなくなりかけたとき、彼の手が私の頬を優しく撫でる。

「つら、ら…」

そして優しい声で私の名前を呼んでキスをする。

きっと彼は私の意識がまだ微かにあったなんて知らないだろう。

それでいい。

私も知らないふりをする。

そうしたら、次の機会が出来るの―

















吉川の浴衣姿を見た瞬間、言葉を失った。

あのばあさんを見送った後に見えたあいつの着ている浴衣から見えたうなじ。

合わせ目から見える白い下着。

この姿でさえも十分ヤバイと言うのに当日は着けないとかあの堅物女は言った。


俺のいないところでその姿を見せるのさえ嫌だというのに。
知らないところでもし男に襲われたら?

そんなことになるくらいなら徹底して体に直接警告してやるしかない。



あいつの身だしなみを整えてから恋人同士の内緒話を行ったふりをして周囲から怪しまれないようにアパートの表へと戻った。

俺の部屋に連れ込んで、結局またしてしまったけれど。

室内だから全部脱がして、外で我慢していた分の欲望を解放した。

吉川の奴は俺のベッドで疲れ果てた表情のままで寝ている。

あいつの肌には俺がつけた所有物の証である赤い印が散らばっていた。

たぶん、それでもこいつは明日の夏祭りは行くだろう。

まぁ、きっと気が気じゃないだろうけどな。



祭りから帰ってきたら、花火でも二人で見ながらまた外で抱くのもいいかもしれない。

きっと綺麗だろう。



そう思いながら俺は微笑んで、吉川の頬に口づけた―



真夏のsuccubus